今まで30年余り消化器外科医として大腸がんを中心にがん患者の診療を行ってきました。エビデンスや過去の患者さんから得られた経験などに基づき、最善の治療と思ったものをスタッフとともに提供してきたつもりです。ただ、自分自身は“がん”の経験がなかったので、いろいろな患者さんを通して、時折「あれでよかったのか?」「もっといい方法があったのではないか?」と自問自答することもありました。

奇しくも今回、自分ががん患者となり“患者の目線”で見てみると、今まで“医療者の目線”で見てきたものとは全く違った光景が見えてきます。また、同じ時間を共有したとしても、おそらく体感する時間は全く異なるであろうことも、両方を経験しているからこそ容易に想像がつきます。

どうしても患者の立場になると医療者の視線・言動が気になり、できるだけ「良い患者のフリ」をします。そして医療者は、やむを得ないですが、自分たちが体験が無いにも関わらず、「知っているフリ」「わかっているフリ」をして治療にあたることになります。もう少しお互いの「フリ」が取れると、医療がもっとよくなる気がしています。今回は自己体験も踏まえ、どうすればお互いの「フリ」を無くせるか考えてみたいと思います。